病み上がり乙女の白き細指の 磨(す)る墨の香ぞ書斎(へや)に漂う
滴塵039
本文
病み上がり乙女の白き細指の 磨(す)る墨の香ぞ書斎(へや)に漂う
形式 #短歌
カテゴリ #9.日常・生活
ラベル #日常 #香
キーワード #病み上がり #指 #墨の香 #書斎 #筆
要点
病後の乙女が書に向かう日常の一瞬と、その情景を五感で描写。
現代語訳
病み上がりの乙女の白く細い指が墨をすり、書斎にその香りが漂う。
注釈
病み上がり:病気から回復した直後。心身が研ぎ澄まされ、繊細な状態。
乙女の白き細指:清らかさ、繊細さ、そして美の象徴。
磨(す)る墨:書道の準備動作、精神の集中も象徴。
ちなみに、磨墨動作は病み上がりの乙女のように優しく行なうものである。
磨る墨の香: 精神を集中させる静謐な香り。
書斎に漂う:香りや静けさが空間に満ちる描写。
解説
日常的な行為の中に、美と静謐を感じる描写。病後の回復や、五感で味わう生活の細やかさを表現。短歌を通じて、日常の中の美的・精神的体験を読者に伝える。
深掘り_嵯峨
前の歌までの厳しい求道のテーマから一転し、繊細で静謐な美を極めた情景描写の歌です。
「病み上がり」の心身の鋭敏さと、「乙女の細指」という純粋な美が、「墨の香」という清らかな芸術を生み出しています。この香りは、外的な世界ではなく、閉じた書斎という内的な世界に漂っており、心身が清浄な状態で生み出される繊細な精神性を象徴しています。美と静寂が浄化を促す、一種の禅的な美意識を感じさせる歌です。